知られざる反例
この記事は 明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダー の 14日目の記事です。(13日目:おすすめ数学小説:ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」 )
数学書には誤植を除けば正しいこと以外はほとんど書かない.これは当然のことであるが,それゆえ教科書に書いていないことを考えた場合にそれが正しいのかどうかがわからない.親切な本では「これが成り立ちそうに見えるがそうではない」という事を教えてくれるが,全ての数学書がそうではないのが現実である.今日は教科書には書かれない「…は成り立たない」という反例の一つとして空間の話をしよう.
に対して
が有限である関数の集合を空間という.定義上積分区間として有界な区間を考える場合もあるが,ここでは積分区間は実数全体とする.空間の関数は特に二乗可積分関数とも言い,フーリエ変換が存在するための条件として登場したりする.なお,私はよくわかっていないがWikipediaの空間のページを見ると,
らしいので,はほとんどいたるところ有界な関数を指す.
空間は工学系の教科書にも登場することが多く,またその定義もそれほど難しくないのである程度知られた関数空間である.ただ,二つの空間の間になんらかの包含関係があると勘違いする人が多いようだ.とある知恵袋には,
L1空間 と L∞空間 の両方にのみ含まれていて,
そのたのLp空間に含まれていない関数はありますか?
という質問に対して
一般に,p<qのときはLp⊂Lqだったと思います。
L1に含まれてしまえば,その他のLp(1<p≦∞)にも含まれてしまうのではないでしょうか。
というベストアンサーがついている.だがこれは誤りである.
以下,としよう.
がで発散し,で収束すること(とある知恵袋の証明)を用いると,
がであることがわかる.同様に,
はとなる.つまりとの間には包含関係はない(補足).証明のないベストアンサーにはご注意である.
最後に,おもしろい反例がたくさん載っている本として吉田洋一著「ルベグ積分入門」を紹介しよう.この本はタイトルの通りルベーグ積分の入門書であり,測度の概念などが述べられているのだが,付録として「反例そのほか」という章がある.おそらく理学部数学科でもない限り,解析学は専ら後で道具として使うこととなるため,積分がらみの次のような話はあいまいになりやすい:
このような鋭い命題を見ると,自分がいかに積分に関していい加減な知識を持っていたかを痛感させられるものである.