数の呼び方

この記事は明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダーの4日目の記事です。(3日目:一時期話題になった素数のスモールギャップに関するプレプリントについて

今日は数の呼び方について書いてみる.あまり高度な話ではない.1.414...とか3.14...を人に伝える時に何と表現するかという問題である.

まず数の基本は自然数 \mathbb{N}である.自然数は個数を数える時に出現する数であるため,負の数や分数は含まれない.

ところが数の差を述べたいときには負の数を含んだ整数 \mathbb{Z}が欲しくなる.負の数は自然数ではないが,自然数で表現することが可能である.例えば 3-5=-2 であるので,2つ組 (3,5) で -2 を意味すると考えれば負の数は自然数で表現できる.

同様に分数,つまり有理数 \mathbb{Q}を表現するには,整数 p, q の2つ組 (p,q) で p/qを表すことにすればよい.例えば6.5という数を人に伝えようとするなら,「あれあれ.あの数.13を2で割った数」と言えばよい.自然数から四則演算を使えば有理数までは表現できることになる.

「何を当たり前のことを」と思うかもしれない.では有理数でない \sqrt{2}自然数で表現するには何と言えばいいだろうか?もちろん「2乗して2になる数」といえばよい.これは今までの話の流れから言うと四則演算に累乗根をとる操作を加えることになるだろう.このように四則演算と累乗根をとる操作は代数的演算と呼ばれる.

だが,自然数から始めた代数的演算で無理数も含めて全て表現できるかと言うとそうではない.代数的演算についてもう少し書くと,代数的演算とは多項式の方程式(代数方程式)を解くための手順である.有名な2次方程式の解の公式を見ると,
 x=\frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}
となっており,係数の代数的演算で解が求められている.しかし,5次以上の方程式には一般に解の公式が存在しないことが明らかになっている.「解の公式が存在しない」とは,「係数の代数的演算で解が表現できない」ということである.切符や車のナンバーから10を作るゲームが暇つぶしとしてあるが,それで言うと代数方程式は「係数から代数的演算で解を求めるゲーム」であり,特に5次以上の方程式は基本的に解けないクソゲーである.

代数方程式 a_nx^n + ... + a_1x + a_0=0を満たす数 xは代数的演算でも表現できない数になりうるということだが,では x自然数から表すことは不可能なのだろうか?実は,ごく簡単な方法でできる. xを「 a_nx^n + ... + a_1x + a_0=0を満たす数」と言えばいいのである.各係数は有理数であるからこの文言自体は xを除けば自然数から表現できる数からなる.

とはいえ,これは非常にインチキ臭いと感じるだろう.解けるかどうかも保証できない式を持ち出して「こんな数」と言われても問題を先送りしている感がある.だが,それで言えば \sqrt{2}だって同じである.平方根は中学数学で習うが,「面積2 cm2の正方形の一辺の長さは?」という問題に「答えは \sqrt{2} cm2です.」と答えることに疑問を抱かなかっただろうか?よくよく考えればこれは「2乗して2になる数字は?」と聞かれて「答えは『2乗して2になる数字です』」とオウム返ししているのと同じである.もっと言えば有理数について「7を8で割ると?」「7/8です」と答えるのも同じようなことである.まあしかしその数にはそういう呼び方がついているのでしょうがない.

ところで,「 a_nx^n + ... + a_1x + a_0=0を満たす数」という言い方で表現できる数を代数的数と言うが,こんなインチキ臭いやり方でも表現できない数がある.それが超越数というやつで,円周率 \pi自然対数の底 eがそうである.ある数が超越数かどうかを証明するのはとても難しく, \pi + eすら超越数かどうかわかっていない.それがわかってどう役に立つかは私の頭脳を超越している.