たのしい積分
この記事は 明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダー の 20日目の記事です。(19日目:期待値とある値以上の確率との関係 )
高校三年生だった年の今頃は受験勉強に明け暮れていた.山ほど数学の問題を解いて勉強した結果,大学の線形代数,解析学の最初の方は高校で得た知識でなんとかできたが,内容が発展していくとだんだん高校の生半可な知識では歯が立たなくなっていった.結局大学数学は高校の知識を捨てて最初から学びなおすこととなり,あれだけ勉強したのは何だったのかと呆然とすることとなった.それでもあの受験勉強の経験で今でも役に立っているものがある.それが正確に,速く計算する技術である.
中でも今でもよく使うのは部分積分による不定積分の暗算である.部分積分の公式は
であるが,こうして式で書くと普段私が使っているようなイメージとは違うような印象を受ける.私の計算も確かにこの通りなのであるが,この公式からは被積分関数を「作っている」感じがしないのである.例えば,の積分では私は次のように考える:
(1)より,と掛ければができるなと考えておもむろに
と書く.
(2)を微分した結果を下に書く.目的のが現れるが,余分なものも出てくる.
(3)目的の項だけが残るように,打ち消す項を下の行に追加する.
(4)より,と掛けて係数を調整すればができるなと考えておもむろにを上の行に追加する.
(5)を微分すると,の他にが現れるので,それを下の行に追加する.
(6)余分な項を打ち消すため,下の行にを追加する.
(7)なので,上の行にを追加する.
(8)もう余分な項は出てこないので,これで完成.上の行が不定積分になっているので,積分定数を追加して答案に書く.
(9)この例ではうまくいったが,時には下の行に積分できない関数が現れたり,永遠に積分が終わらなくなることがある.具体的には,(1)でが現れる不定積分としてから出発したが,から出発してしまうとの次数が上がっていくだけで一向に終わらない.こういう場合には出発する関数を変えてやってみるとうまくいくことがある.
私は部分積分が面倒で嫌いだったのであるが,この計算手法なら無駄にインテグラルを書かなくてもよい.慣れてくると下の行を書かなくてもだいたいできるようになってくるので,暗算で積分ができるようになる.模試で隣の席の生徒がえっさほいさと途中式を書いている中,一行でスパッと積分が書けると気持ちいい.「たのしい算数」は全く楽しくなかったが,当時の私にとって積分はとても楽しいものであった.